横浜地方裁判所 昭和54年(ヨ)1235号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
申請人らは、組合規約違反により、その所属する全日産自動車労組(申請外組合)を除名されたもので、被申請人は、この除名を理由にユ・シ協定に基づき申請人ら全員を解雇した。申請外組合のした除名については、この無効を前提とする申請人らの地位保全仮処分がすでに、本決定をした裁判官と同じ裁判官によつてなされている。事案の詳細については後掲(本誌本号一一五頁)の右除名事件の決定をも参照されたい。
【判旨】
二そこで本件解雇の効力について検討する。
1 被申請人は、前記のとおり、申請外組合との間のユニオン・シヨツプ協定に基づき申請人らを解雇したものであるところ、労働組合から除名された労働者に対し、ユニオン・シヨツプ協定の義務履行を理由として行つた解雇は、右除名が無効な場合には、他に解雇の合理性を裏づける事由のない限り、解雇権の濫用として、無効となるものと解するのが相当である(最高裁昭和五〇年四月二五日判決、民集二九巻四号四五六頁参照)。被申請人は、除名の有効、無効と解雇の効力とは無関係であり、除名の有効、無効は本来使用者の調査、判断すべき事柄ではないので、使用者は手続的に適式な除名通知があれば被除名者を解雇しなければならない、と主張するが、右の見解は当裁判所の採らないところである。
2 進んで、本件除名の効力について検討する。
(一) 本件疎明及び審尋の結果によれば、申請人らは、昭和四五年二月ころから、申請外組合の組合活動、運動方針等に飽き足らず、組合の民主化と労働条件の向上を標榜して、「労働問題研究会」を結成し、その後昭和四八年九月ころ、「明るい厚木部品をつくる会」と改称して、職場新聞「ぶひん」、「じゆんかつ油」の発行、ビラの配布、更にはアンケート調査をするなどして活動し、申請外組合が、企業側の生産計画に無条件に協力し、賃上げ、一時金の要求も企業側の立場を考慮して簡単に妥結する傾向のあることや、選挙の際に民主社会党のみを支持し、組織を挙げて選挙活動をすることに反撥して、これらを厳しく批判し、その旨の記事を掲載し、あるいは職場における会議の席上でその旨の発言をしていたこと、これに対し、申請外組合の執行部は、申請人らの活動は日本共産党の政治活動を忠実に則りこれを実践しているもので、労働運動に仮装した同党の細胞活動であるとして嫌悪していたこと、このような状態が長期間に亘つて継続していたところ、昭和五四年九月一四日、申請外組合代議員会において、「申請人らの「ぶひん」その他のビラの配布、宣伝、アンケート調査等は日本共産党の組織拡大と組合支配のための分派活動であり、右は組合規約一三条一項三号(組合の統制を乱したとき)に該当し、また、「ぶひん」その他のビラの中には申請外組合を誹謗中傷し、事実を歪曲して、組合執行部、役員と一般組合員を離間分断し、組合内に動揺、混乱を生じさせることを企図した不当なものが多く、右は同項二号(組合の名誉を汚したとき)に該当する。」として、突如、除名処分がなされ、これを不服としてなした申請人らの抗告に対し、前記大会において、右抗告を棄却して除名を決定したこと、以上の事実が一応認められる。
(二) これによれば、申請人らが申請外組合の執行部と異なつた見解を持ち、これを批判する立場で行動していたものであることが認められるけれども、右は、思想、信条、支持政党等の相違に由来するもので、民主的組織であるべき労働組合における組合員の表現の自由、結社の自由のもつ意味の重要性に鑑みるとき、申請人らの前記の言動が分派活動であつて組合の統制を乱しあるいは組合の名誉を汚したとまで断定するには多大の疑問があるものといわざるをえない。仮に、申請人らの前記の言動が申請外組合の統制を乱しあるいは名誉を汚して制裁の対象となるとしても、その程度は比較的軽微なものと認めざるをえないので、除名が労働組合の制裁処分としては最も重いうえに、前記のようにユニオン・シヨツプ協定によつて従業員としての地位をも喪失することとなる状況のもとにおいては、申請人らを前記の理由により除名することは、著しく苛酷であつて、社会通念上到底これを容認することができない。
(三) 以上のとおり、本件除名処分は、前記規約所定の除名理由がないか、もしくは制裁権を濫用したものであつて、いずれにしても無効といわなければならない。
3 しかして、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由の存在につき主張、疎明のない本件においては、その余の点につき判断するまでもなく、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。したがつて、申請人らは、被申請人の従業員としての地位を依然として保有していることになる。
(吉崎直弥)